大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和31年(く)8号 判決

本件抗告理由は、高良元福は昭和三一年一月三一日名古屋地方裁判所に於て詐欺罪により懲役六月、二年間刑の執行猶予の言渡を受け、右判決は同年二月一五日確定したものであるが、同人は更に同年一月三一日及び同年二月七日に犯した詐欺の罪により、同年三月二〇日同裁判所に於て懲役八月に処せられ、その刑につき執行猶予の言渡がなく、同年四月四日右判決確定したから、検察官は刑法第二六条第二号に該当するものとして、名古屋地方裁判所に対し右刑の執行猶予の言渡取消の請求をしたところ、同裁判所は右の場合は刑法第二六条各号に該当しないとして、右取消請求を却下する旨の決定をしたが、刑法第二六条第二号に「猶予の言渡前」とは「猶予の言渡確定前」の意味であつて、判決の宣告より確定までの期間が当然含まれるものであるから、原決定は法令の解釈を誤つた失当のものである。依て右決定を取り消し、更に相当の裁判を求めるために本抗告を申し立てたというにある。

当裁判所は刑法第二六条第二号に所謂「猶予の言渡前」とは「猶予の言渡の確定前」の意味に解するのであるが、以下その理由を説明する。原決定は刑法第二六条第二号の「猶予の言渡前」とは文字通り厳格に解釈して、猶予の言渡以前と解すべきものであると言うが、かく解するときは、同条第一号により、猶予の言渡判決の確定後に於て猶予期間内に更に罪を犯し禁錮以上の刑に処せられ、その刑につき執行猶予の言渡のないとき(右第一号の解釈として、その猶予期間の進行は猶予の言渡判決の確定と共に進行することについては異論のないところである)、及び同条第二号により、猶予の言渡以前に犯した他の罪につき禁錮以上の刑に処せられ、その刑につき執行猶予の言渡のないときは、刑の執行猶予の言渡を必要的に取り消されるべきものであるが、その中間に於て執行猶予判決の言渡以後同判決確定までの間になした犯罪については、仮令禁錮以上の刑に処せられ、その刑につき執行猶予の言渡がないときと雖も、執行猶予の言渡は取り消されないことになる訳である。之は全く不合理と言うの外はない。一体、刑法第二六条第一、二号に於て刑の執行猶予の必要的取消の規定を設けた趣旨は、当該被告人が近い将来に於て再び悪質な罪を犯すようなことはないだろうと信じ、又当該犯罪の外に他に悪質な犯罪を犯していないと信じて、かくの如き被告人に対しては現実に刑を執行しなくとも、よく刑の目的を達することができるものとして刑の執行を猶予する言渡をしたものであるが、その裁判所の考えに反し、近い将来に於て罪を犯したり又は他の罪を犯していたりして刑罰を受けるような者に対しては、そのまま之を放置しないで、先になした刑の執行猶予の言渡を取り消して、現実に之を執行し、以つて刑の目的を達せんとするにあると言うべきである。従つて、此の趣旨から言えば、刑の執行猶予の言渡を受けた者がその言渡日以後判決確定前までの間に更に悪質な犯行をなすが如きは、右裁判所の考えの根底に反するものであつて、之のみを取消の対象としないと言うのは、全く合理的根拠を欠くものと言うべきである。依て、同条第一、二号を通ずる合理的解釈として、第一号は猶予言渡判決確定日より起算し猶予期間内に更に罪を犯した場合を言い、第二号の「猶予の言渡前」とは「猶予の言渡確定前」の意に解し、猶予言渡日以後確定以前までに罪を犯した場合には第二号に包含されると言うべきである。法文の解釈は固より各条文に表示された字句を紊りに離れてなさるべきものではないが、徒に文字のみに捉われることなく、その字句の表現せんとする基本観念を把握して之により合理的に解すべきものである。此の意味に於て、当裁判所の採る解釈は条文の合理的解釈であつて、決して基本観念を逸脱した拡張解釈又は類推解釈と呼ぶべきものではない。

刑法第二六条第二号を以上の如く解して、今本件に付き之を見ると、記録によれば、高良元福は昭和三一年一月三一日名古屋地方裁判所に於て詐欺罪により懲役六月、執行猶予二年に処する旨の判決の言渡を受け、同年二月一五日右判決確定したところ、その猶予の言渡の確定前である同年一月三一日及び同年二月七日の二回に亘り詐欺罪を犯し、同年三月二〇日同裁判所に於て懲役八月(法定未決勾留一五日通算)に処せられ、その刑につき執行猶予の言渡なく、前記猶予期間内である同年四月四日判決確定したことを認めることができる。依て右は刑法第二六条第二号に該当し、刑の執行猶予の言渡を取り消すべきものである。従つて、之に該当しないとの解釈の下に検察官の本件刑の執行猶予の言渡取消請求を却下した原決定は法令の解釈を誤つたものであつて失当であり、本件抗告は理由があるから刑事訴訟法第四二六条第二項に則り、主文の通り決定する。

(裁判長判事 高橋嘉平 判事 伊藤淳吉 判事 梶村謙吾)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!